あの長く、長い三日間の末、
長く、長いだけの眠りを経て、
俺はただただ平穏な自室のベッドの上で目を覚ました。
今日から八月が始まるとはまるで思えない温い空気の中、
俺は寝ぼけ眼で日付を確認し、
今がまだ六月も終わりに差し掛かったばかりだということを改めて知る。
あの活気に溢れ雑然とした教室の風景などそこにあるはずもなく、
片付け切れていないゴミ袋、その静謐とした無機質な雑然のみが今の俺の生活を縁取っていた。
不思議な喪失感だ。
もともとたまさか手元に転がってきたような輝きがその期限を迎えただけだというのに、
とても大切なものを奪われてしまったような心持ちである。
分不相応な責任を抱えながら最後にはそれを堂々と掲げきったあのクラスメイトも、
融通の利かないくせして実は他人がそう嫌いではないだろうあのクラスメイトも、
まるで悩みなんてなさそうな顔をしながら恋心と友情の狭間で心を揺すぶられていたあの同級生も、
八回目だろうが帰ってくるなら受け入れてやるよっつー港みたいな度量をもったあの同級生も、
ここにはもういない。
今は空回りだとしてもそれがきっと皆の思い出になるはずと奔走したあの後輩も、
誰もが折れかけたとき最後まで諦めることなく真っ直ぐと立って仇の名を呼んだあの後輩も、
どれだけ笑われようとも恥も外聞もなく好きな女のために全力で戦ったあの後輩も、
ここにはもういない。
もうこの学校に期待なんてしていない風で本当は一番後輩たちのことを考えてたあの先輩も、
自分のクラスのことしか考えてないようでちゃんと周りを見てた実は姉御肌なあの先輩も、
この学校と共にあって、この学校を守りたくて、この学校そのものであろうとしたあの先輩も、
ここにはもういない。
浮気はするわ小便漏らすわで良いとこなんてないはずなのになぜか憎めないあの同級生も、
この世で一番フワフワしてそうだけど大切なものを守りたい芯はしっかり通っていたあの同級生も、
あの俺も、
ここにはもういない。
黒板消しに拭われて靄みたいになった各クラスの票も、
一年の騎士どもが前のめるもんだからズレちまう机も、
ちゃんと座らないせいで無造作に広がる三年の椅子も、
特に海のyeah!!の野郎が撒き散らしまくった床の汗も、
ここにはもう。
痛む腰を労りつつ階段を降りて洗面所に向かうと、
鏡の中では無精髭を生やした壮年の男が疲労していた。
その姿がなんだか普通に滑稽で俺は笑ってしまった。
そこに高校生がいないことは当然なのに、
何かを期待していた、いや違うな、忘れていた自分が可笑しかった。
夢を見ていたのだ。
幸せな夢を。
ここから現実が再開してリセットだ。
また新しい夢を見る、見せる準備だ。
そんなことを考えながらいつも履いているボトムスに足をくぐらすと、
ふいに触れたポケットに何かの存在を感じた。
手を突っ込んで取り出すとそれは先日の打ち上げでいただいた大入り袋だった。
その中には、あの公演に携わったたくさんの人と交換をして、
巡り巡ってこのポケットまでやって来た五円玉が入っていた。
え?
いやいやいや……
いやいやいやいや!!!
つまりこれ現実やんけ!!!
俺が見てたのは夢じゃなくて現実やん!!!!
幸せな現実やんけ!!!!
おいおいおいおい!!!
あぶねー!!!!
危うくただの夢扱いするところだったわ!!!!
リセットも何もないっすよ!!! 地続きだもんで!!!
や、ガチな話ね!!!!
めっちゃ楽しかった!!!!
2018年の高校生の夏めっちゃ楽しかったよ!!!!
毎日浅草行ってたからね!?!?
でもな!?
今からこれから三十歳の夏が始まるんやで!?!! 本格的によ!!?
じゃあもっともっと楽しくしたらんとなあ!!!
なぁ!!! ハム太郎!?!?!?
ハム太郎「生ビールいっぱい飲むのだ!!!!!」
よっしゃ!!!!
コントレックスvol.20、ご期待くだせえ!!!!!