『蝉が鳴いている』

 
「ついたぞ」
とお父さんに揺すられて目を覚ました。
じっと座っているうち、いつ間にか眠ってしまっていたのだろう。
僕は少し寝汗をかいていてシートベルトの圧迫感が気持ち悪かった。
車から降りると日中の駐車場は蒸し蒸しと暑く、すぐにだらだら汗が流れた。
蝉の声を聞きながら木陰をくぐると病院の白い建物が見えた。
 
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帰り道の話

俺の最寄駅って各停しか停まらないんですけど、その一つ前の駅は急行も停まるんですね。
で、最寄駅までの最終がなくなっちゃってもその駅終点の電車は一本残ってるから、
遅くまで飲んだ帰りとかそれ利用すること結構多くて。
まぁ当然最寄駅から歩くよりも家までちょっと距離あって、だいぶ住宅街の中を行くんですけど、
その途中のちょっとした公園の横に電話ボックスがあるんですよ。
みんな携帯持ってんのに今時って感じですけどまだ生き残ってて。
公園の灯りもほとんどない中、誰のためかも分からんのにぼんやり光ってるのがなんか不気味で、
普段はあんまり直視しないように通り過ぎるんですね。
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帰路にて

仕事終わりの電車内、ドア横のスペースにもたれた私はじんわりと汗の浮かんだ首元を拭う。
本音を言うなら座りたかったのだが、今の時間帯を考えれば仕方のないことだ。この位置を確保できただけでも儲けものだと思おう。
それにしても、外と車内の気温差が尋常でない。あまりこの状態が続くようだと、ただでさえ風邪気味なところ、さらに具合が悪くなりそうだ。
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カヤとアシタカ

カヤ「兄さま」

アシタカ「カヤ、見送りは禁じられているのに……」

カヤ「おしおきは受けます。これを私の代わりにお伴させて下さい」

アシタカ「大切なひとし君人形じゃないか……」

カヤ「お守りするよう息を吹き込めました。いつもカヤは兄さまを思っています。きっと……きっと……」

アシタカ「私もだ。いつもカヤを思おう」

 
※このひとし君人形は最終的にサンにボッシュートされます。