ある朝、寒沢 暮吾郎が不安な夢から目を覚ますと、布団の中で自分が巨大な大根に変わっているのに気が付いた。
彼は多少潤いのある皮に包まれた固い背中――なのだろうか――を下にして横たわり、青々とした葉の茂る頭――なのだろうか――を少し上げると、こんもりと盛り上がっている自分の真っ白い腹――なのだろうか――が見えた。
「俺はどうしたのだろう」と彼は思った。
彼の布団の頭のほう――ちょうど大根葉の側にある――、襖の向こうから声がした。
「暮吾郎」と、その声は言った――母親だった――「もう起きる時間でしょう。出かけるのじゃないの?」
暮吾郎は「大丈夫だよ」と返事をする自分の声を聞いて、ぎくりとした。それは確かに彼の以前の声ではあったがその中に、底のほうからまるで大根をおろすようなジョリジョリいう音が混じっていた。母親は――風邪でも引いたのかしらんと思ったのだろう――、気に留めず廊下を戻っていった。
なんて不条理な夢だと暮吾郎は思った。そして平穏な日常に立ち帰られるものと信じて、再び眠りについた。
母親がもう一度部屋を訪ねたとき、暮吾郎はすやすやと眠っていた。返事がないので部屋を覗くと、布団の上には大きな大根がごろりと転がっていた。
母親は「あら、これは良い」と言って、両腕で大根を持ち上げると、部屋を後にした。奇しくもその立派な大根は、暮吾郎が産まれたときの二九〇〇グラムと変わらぬ重さだった。このとき暮吾郎は――母親に抱きかかえられた幼い日を夢に見ていたのだろう――、依然として心地好さそうに眠りについていた。
こうしてその朝の味噌汁には具材が一種増えたのだった。母親はいつもより豪勢な朝餉を暮吾郎に食わせようと待っていたが、彼はついぞ姿を現すことはなかった。次の朝も、その次の朝にも帰ってくることはなかった。
〈終〉
津和野さん
ブログ更新ありがとうございます。津和野さんは小説も書けるんですね。尊敬します。
右から2番目の顔がおちゃめで好きです。
ご覧くださいまして、こちらこそありがとうございます!
そんな大層なものではないのですが、文章を書くのは好きです。
右から二番目は『ナイゲン(全国版)』で2年2組アイスクリースマスの代表者役をやったときの顔です。
どうやって他人を陥れてやろうか考えているおちゃめな顔です。